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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和31年(ワ)365号 判決 1960年9月29日

主文

一、被告藤井太一は別紙目録記載の不動産につき神戸地方法務局西宮支局昭和三十一年一月十六日受付第二八二号による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二、被告大西克美は右不動産につき同法務局同支局昭和三十一年二月二十五日受付第二〇〇〇号による所有権移転請求権保全仮登記並びに同年七月二日受付第八五二〇号による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告は主文第一ないし三項同旨の判決を求め、予備的に被告藤井太一に対し、「同被告は原告に対し金四百万円及びこれに対する昭和三十一年十月二十日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は同被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として、左のとおり陳述した。

一、訴外摂津綜合事業協同組合(以下破産組合という)は、昭和三十年十一月十七日支払停止をしたが、昭和三十一年一月七日訴外茂森得司から神戸地方裁判所尼崎支部に破産の申立てを受け、同裁判所は同年七月三日右組合に破産宣告をなし、原告等はその破産管財人に選任された。

二、破産組合は、昭和三十年八月八日被告藤井太一から金三百万円を弁済期昭和三十一年七月三十一日利息日歩金三銭毎月払の約で借受けていたが、昭和三十一年一月十六日に至り、被告藤井に対し弁済期限の利益を抛棄して右債務の弁済に代え、別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)の所有権を譲渡した。尤も登記簿上は同日神戸地方法務局西宮支局受付第二八二号をもつて同日売買を原因とする所有権移転の登記を了しているが、真実は代物弁済なのである。

三、右代物弁済は破産組合が債務超過に陥り本件不動産以外にみるべき資産がなくしかも支払停止並びに破産申立後の行為であつて、破産組合が一般債権者を害することを知つてなしたことは明らかであり、被告藤井も詐害の意思を有し、かつ右支払停止並びに破産申立の事実を知つていたものであるから、破産法第七十二条第一号又は第二号により、否認さるべきものである。

四、被告大西克美は、本件不動産につき昭和三十一年二月二十日被告藤井との間に売買予約をなし、同月二十五日同法務局受付第二〇〇〇号をもつて所有権移転請求権保全仮登記をしていたが、同年六月三十日売買により同年七月二日同法務局受付第八五二〇号をもつて所有権移転登記を了したのであるが、右売買予約当時被告藤井に否認の原因あることを知つていたものであり、仮りにそうでなくても、右売買当時にはこれを知つていたこと明かであるから、原告は被告大西の売買行為をも否認する。

五、仮りに被告大西に対する請求が理由なしとすれば、本件不動産を破産財団に返還させることができないので、被告藤井に対し本件不動産の返還に代えてその時価たる金四百万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和三十一年十月二十日より完済まで民事年五分の遅延損害金の支払いを求める。

六、よつて、原告は被告等に対し否認行為を原因とする主文第一、二項掲記の抹消登記手続を求めるため、本訴請求に及んだ。

立証(省略)

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」判決を求め、原告の請求原因事実中破産組合が主張どおり破産の申立てを受けて破産宣告をされたこと、被告藤井が主張どおり破産組合に金三百万円を貸与したこと、同被告が本件不動産を右債権の代物弁済として所有権を取得(但し取得の日は後記のとおり)したこと並びに原告主張の如き各登記がなされていること被告大西が登記どおりの権利を取得したことは何れも認めるが、その余は争う。

一、訴外藤井〓三は被告藤井太一の叔父であつて、訴外日布毛織株式会社の代表取締役をしているところ、郷里の大先輩で破産組合理事長である訴外細田忠治郎から右組合に融資方を依頼されたので、被告藤井に金員を贈与した上同被告が右組合に金員を貸与する趣旨のもとに、古〓三の配当金になるべき訴外会社の金から金三百万円を取り出して被告藤井の名で右組合に貸与したのであるが、右貸与と同時に本件不動産の売買予約をなし、昭和三十年八月六日所有権移転請求権保全の仮登記を経たが(尤も登記簿上は藤井太堂と登載され、しかも昭和三十一年一月十六日右仮登記は抹消されているが、これは受任司法書士が間違えてなしたものである)、昭和三十年暮に国税を多額に納めねばならぬ事態が生じ、右組合と談合の結果、昭和三十一年一月十六日右債務の履行に代え本件不動産の所有権を取得して同日売買による所有権取得登記を了したので、右所有権取得の効果は仮登記のときに遡ものというべく、同被告の所有となつた本件不動産を訴外〓三は処分換金して一時利用した関係にあり、右の事情で同被告は破産組合の内部事情は全く知る筈がなく、右所有権取得が一般債権者を害するということも、支払停止破産申立ての事実も知らなかつたのである。

二、被告大西克美は被告藤井の金融上本件不動産を買取つただけで、被告藤井と破産組合との間に如何なる事情があつたかは一切知らない。

と述べた。

立証(省略)

別紙

目録

西宮市産所町三番

一、宅地   四十三坪

右地上

家屋番号十番の二

一、木造瓦葺二階建事務所   一棟

建坪      十六坪二合五勺

外二階坪    十六坪二合四勺

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